真夏の藤前干潟を歩いて野鳥観察──名古屋市港区のラムサール条約湿地を記録

エイを咥えるカワウ 野鳥


藤前干潟(愛知県名古屋市港区)は、ラムサール条約湿地として知られる日本有数の渡り鳥の飛来地です。
秋から冬にかけて多くの野鳥が集まりますが、真夏の情報はほとんどありません。
今回、真夏の藤前干潟を実際に歩いて観察した体験をまとめました。

【藤前干潟の歴史】
①藤前干潟と名古屋港
もともと藤前干潟のエリアは名古屋周辺を流れる河川の河口部にあたり、広大な干潟となっていました。
1896年(明治29年)から、さらに海側に名古屋港の築造が始まりましたが、当時の水深は1m程度の遠浅の海だったそうです。
現在の名古屋港の埋め立てエリアは、船の通行路を作るために堀った(浚渫)土砂を転用して作られています。
こうして藤前干潟以外の干潟は現在の名古屋港を形作る過程で姿を変えました。
※名古屋港の成り立ちは名古屋海洋博物館の展示が詳しいです。

※現在の藤前干潟の位置

②ごみ埋め立て問題
1981年、名古屋近郊に残された藤前干潟をごみ埋立処分場にする計画が発表されました。
名古屋のごみ埋め立て処理場が満杯になるのを見越して計画されていましたが、市民らの活動もあり計画は1999年に中止となりました。
この時は10万人以上の署名が集まったそうです。
一方でごみ削減が急務になっていたため、ごみ処理計画中止の翌月、名古屋市は「ごみ緊急事態宣言」を宣言しました。
実際に2年間でごみ排出量を20%削減し、その後も名古屋市は日本でもトップレベルのごみの分別を行っています。
こうして藤前干潟は埋め立てられることなく残りました。

※補足
当時としてもごみ問題は全国的な課題でありました。
一般的には2000年ごろにかけてごみ埋立により新たな土地を海上につくることが活発に議論されていたようです。
大阪では昔から埋め立てを推進しており、かつては日本で一番小さい都道府県でした。
しかし廃棄物処理を含む埋め立てにより現在は香川県の面積を抜いています。
有名なところだと2025年の大阪万博の会場であった夢洲は廃棄物埋め立てでできた人工島です。
現在も大阪湾フェニックス計画に基づき進められています。
ただし、今後は新規の海への廃棄物埋め立ては基本的にできなくなる見込みです。(水質汚染リスク、廃棄物の安定化遅延などが理由)

③ラムサール条約湿地としての藤前干潟
藤前干潟は2002年にラムサール条約湿地に登録されました。
日本のほぼ中央に位置し、渡り鳥の中継地点になることがその理由です。
植生は豊富ではありませんが、ゴカイや貝類といった底生動物が豊富にあるため、渡り鳥の貴重な食糧源となっています。
2025年には名古屋市の活動が評価され、日本で3都市目のラムサール条約湿地自治体に認証されています。
現在は藤前干潟の東側に名古屋市野鳥観察館と稲永ビジターセンター、北側に藤前干潟活動センターがあります。

【アクセス】
①車で訪問
名古屋市野鳥観察館や稲永ビジターセンターへ行く場合

  • 稲永公園中央駐車場
  • 稲永公園野球場西駐車場
  • 稲永公園南駐車場

藤前干潟活動センターに行く場合

  • センター建物西隣
  • 園地駐車場(堤防沿い、ポール注意)

②電車
野跡駅から徒歩15分(名古屋市野鳥観察館や稲永ビジターセンター)

③バス
市バス「サンビーチ日光川」下車で徒歩20分(藤前干潟活動センター)

現在、愛知県でアジア競技大会が開催予定です。
駐車場等が利用できるか最新情報をご確認ください。

【観測条件】
今回は実際に稲永ビジターセンターから藤前干潟活動センターへ歩いて往復しました。
ルートは以下の通りです。

今回は干潮の2時間半前から歩きだしました。
私は干潟だと基本的に干潮前の引き潮で野鳥観察をするようにしています。
干潟が現れ、干潟の生き物が現れ、野鳥が食べるためにやってくると考えているからです。
今回は大潮の干潮を狙い、午前中移動しました。

【関連施設】
稲永ビジターセンターはラムサール条約湿地についての展示が多いです。
初めて訪問する際は展示を見てみると面白いと思います。

稲永ビジターセンター

※稲永ビジターセンター

また、名古屋市野鳥観察館はもし開館していれば一度覗くと良いです。
野鳥観察館のブログなどにもあげられていますが、昨日などに観察された野鳥情報が黒板に書かれています。
これから探鳥に行く際の目安になります。
また、冷房や図鑑、剥製や望遠鏡など様々な物があります。
非常に暑い夏でも快適に遠くの野鳥を観察できる施設になっておりおススメです。

名古屋市野鳥観察館

※名古屋市野鳥観察館

一方、藤前干潟活動センターはアクセスが少し悪いため、足が少し伸ばしにくいです。
しかし藤前干潟の生物が実際に生きた姿で水槽に入っていたり、資料の展示などもあります。
後述しますが、大きな干潮(潮位が70cmを下回る)の場合はセンター前に干潟ができます。

藤前干潟活動センター

※藤前干潟活動センター

【野鳥観察】
①水浴びスズメ
すでに潮が引いており、干潟が一部見えてきていました。
干潟ではスズメが水浴びしていました。
海水で一般の野鳥が水浴びするの?
と思いましたが、カラスもしているのでOK、なのでしょうか。
水浴び最中にムクドリの集団が飛び立ったのでスズメは驚いて濡れたまま飛び跳ねていました。

水浴びするスズメ

※水浴びするスズメ

水浴び中に驚いて飛び立つスズメ

※水浴び中に驚いて飛び立つスズメ

②干潟を漁る鳥
干潟にはカニなどの生物がたくさん現れていました。

干潟に現れたカニ

※干潟に現れたカニ

それを食べにいろいろな野鳥がやってきていました。
ハクセキレイは何か小さなものを食べ歩いていました。

干潟周辺をうろつく若ハクセキレイ

※干潟周辺をうろつく若ハクセキレイ

ウミネコやハシボソガラスはカニを食べていました。
栄養価が高そうです。
冬はもちろん、夏も貴重で安定した食糧源になっているようです。

食事中のウミネコ

※食事中のウミネコ

カニを持ち上げるハシボソガラス

※カニを持ち上げるハシボソガラス

③夏なのにキンクロハジロ
基本的にキンクロハジロは夏に北方に渡ります。
しかしキンクロハジロがいました。
見た段階では一羽だけだったので、渡りができなかった個体でしょう。
まずは灼熱の名古屋を生き延びて、秋冬に仲間と無事合流できることを祈りましょう。

一羽だけのキンクロハジロ

※一羽だけのキンクロハジロ

④新たな干潟の発生
ちょうど藤前干潟活動センターに近づいてきた時です。
カワウたちが沢山列をなして飛んできました。

藤前干潟活動センター方面(写真右)に向かって列をなして飛ぶカワウ

※藤前干潟活動センター方面(写真右)に向かって列をなして飛ぶカワウ

大集合するカワウ

※大集合するカワウ

ちょうど藤前干潟活動センターの南に干潟が現れるタイミングだったのでしょう。
カワウだけでなく、ウミネコやサギ類など多くの野鳥が集まりました。

干潟に集まる野鳥

※干潟に集まる野鳥

藤前干潟活動センターによると、潮位が70cmを下回るとセンター前に干潟が出てくるそうです。

最終的に現れた干潟(奥は名港トリトン)

※最終的に現れた干潟(奥は名港トリトン)

⑤エイに大苦戦
干潮で水位が下がると、干潟だけでなく周辺の生き物にも大きな影響があります。
逃げる範囲が狭くなり魚などを捕まえやすくなるチャンスです。
カワウはどうやらエイを捕まえた様子。

エイを捉えたカワウ

※エイを捉えたカワウ

しかし大きくて飲み込むことができません。
しばらく見ていましたが結局ずっとエイを咥えてウロウロ泳ぐことしかできませんでした。

⑥干潮のシギ・チドリ
干潮のピークに達したころ、波打ち際を歩くソリハシシギを発見。
クチバシがそっており、エサを探して一生懸命。
ソリハシシギは熱心に波打ち際を歩いていました。
一方でコチドリは集団で潮が引いてしばらくたった地面を歩き回ります。
見た目は幼く、親子でしょうか。
適度に広がりミュウミュウ鳴きながらご飯探しに夢中でした。

波打ち際を歩くソリハシシギ

※波打ち際を歩くソリハシシギ

干潟を歩くコチドリ

※干潟を歩くコチドリ

⑦あまり干潮の影響を受けていない鳥
これまでは干潮のチャンスで活発に動いている鳥を紹介しました。
それ以外の鳥も軽く触れます。
川の上流方向にはヨシ原が管理されています。
そこをツバメやオオヨシキリが飛んでいました。
オオヨシキリは縄張り主張のピークを越えたのか、あるいは暑すぎたのかわかりませんが、全く鳴くことなく無音で飛んでいました。

鳴かないオオヨシキリ(写真中央)

※鳴かないオオヨシキリ(写真中央)

カルガモは干潟で集団でまったりしていました。
ただし積極的に食事をとるようでもなく、いつも通りといった感じ。
主たる食料は植物系なため、動物系の食事チャンスの干潮はあまり意識していないように感じました。

マイペースなカルガモ

※マイペースなカルガモ

【往復してみて】
・真夏の観察について
野鳥を観察しながら往復すると3時間かかりました。
真夏に3時間歩いたため、水筒を2本(1L+α)しっかり持っていきましたが
2時間30分の段階で空になりました。
最後の補給から30分程度で野鳥観察館まで戻ってこれたため、問題はありませんでした。
午前中からお昼にかけてこの程度だったので、午後に歩くとさらにきついと思います。
帽子はあってよかったです。
それでも階段を上る時はくらっと来ることが何回かありました。
心拍数の上がる動作をする前は呼吸を整えてからのほうが良いです。
服の隙間から日焼けをすごくしてしまったので、体の隅々まで日焼け止めを塗っておくことをおススメします。

・野鳥について
大潮の干潮近くを狙ったため、普段とは違う姿をより見ることができたと思います。
今回はいつもいるミサゴをなぜか見かけませんでした。
タイミングと言えばタイミングですが、それなりに数もいるのでたまたまだと思います。
一方で、キンクロハジロなど今のシーズンでは珍しい鳥もいました。
やはり生物を相手にする以上、現地でしか感じられない体験や感動があると感じました。
干潟沿いは見晴らしが良いので、野鳥が飛んでいるとすぐ見つけられてよかったです。

・その他
少し心配だったこととして、野鳥観察館に帰ってきた時に沖合にレスキュー関連の小型船が座礁しているように見えました。
往路ではいなかったため、干潮で水位が低下したため抜け出せなくなったのだと思います。
消防関連の船だったようで、現実的には潮が満ちてくるのを待つしかない状況のようでした。
非常に暑い中、長時間復旧していたようなので頭が下がります。
同時に藤前干潟はやはり遠浅だと感じました。

干潮時の座礁したと思われる小型船

※干潮時の座礁したと思われる小型船


【最後に】
今回は藤前干潟に行ってきました。
以前紹介した勅使池とは違ってより海辺の生物が見られました。
歩くと距離も長く、日光を遮る場所も少ない厳しい環境です。
しかし、その分だけ多くの野鳥や生物をみることができます。
備えをしっかりしたうえで、夏の藤前干潟も楽しんでみてはいかがでしょうか。

ーカメビギ

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